♪校長室カンタービレ♪ 第24号
平成30年1月26日
前号では人工知能について書きました。この人工知能の進歩によって、人間の領域とされてきた「認知能力」を必要とする幅広い分野の仕事を、人工知能が代行できるようになっています。この認知能力の分野では、人間が人工知能にはかなわない日が、すでに来ているのではないかと感じます。
「認知能力」とは、簡単に言うと「テスト等で数値化できる知的能力」のことです。それに対して、認知能力ではないという概念で「非認知能力」という言葉があります。欧米では「社会情動的スキル」と呼ぶそうです。
「非認知能力」とは、「物事をやり抜く力・やる気・根気・リーダーシップ・協調性・創造力・自制心・対応力などの数値化できない力」を表します。つまり、「目標に向かって頑張る力」「他者とうまく関わる力」「感情をコントロールする力」であり、「生きる力」そのものと言えるかもしれません。近年、この「非認知能力」をどう育てるかということが、学校教育における重要課題と言われるようになりました。もちろん「認知能力」を育てることは大切ですが、それとともに「非認知能力」を育てることによって、人間が自分らしく生き抜き、自らの成長を支え続けることにつながるという考え方です。
もちろん、これまでの教育においても、「非認知能力」は重視されてきました。ただ、「非認知能力」はその子が持っている気質や性格と深く関係していると捉えがちだったことも事実です。これからは、「非認知能力」は教育によって育てることができるという意識を持つことが大切になってくるのです。
次期学習指導要領では、新しい時代に必要とされる資質・能力を、①知識・技能(何を理解しているか、何ができるか)、②思考力・判断力・表現力等(理解していること・できることをどう使うか)、③学びに向かう力、人間性等(どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか)の3つの柱としています。①②が「認知能力」、③が「非認知能力」に該当するのかもしれません。
私も会員である島根県高等学校音楽教育研究会(高音研)では、①感じ取る力(音楽を形づくっている要素を知覚し、それらの働きが生み出す特質や雰囲気を感受する力)、②表現する力(音や音楽を聴き取り、感じ取ったことを生かして音楽表現する力)、③創造する力(思いや意図をもって表現したり味わって聴いたりする力)、④学びあう力(音や音楽への主体的な関わりを基盤に、他者と協働しながら学び深める力)、⑤自他尊重の力(我が国や郷土の伝統音楽をはじめ、多様な音楽文化の価値やよさを深くとらえる力)の5つを、音楽を通して育てたい力として定め、研究を重ねています。デジタル化が進む現代だからこそ、音楽でなければ伝えることのできないもの、音楽の教育的価値について、もう一度確認していかなくてはならないと考えています。現在は音楽の授業を担当できない立場となった私は、「音楽を教える」から「音楽で育む」ことを大切にした今後の音楽教育に、大いに期待しています。